アーヴ語学演習A: 第三回

今回のテキスト

F'a flare rycmal gereulacr,(10)
Sausnée surepuce,
Issae dade lo fade,
Froce tymbaidel gol.

F'a Bale, carsarh gereulacr.

新出単語

flare 【動】渡る。
froce 【動】空識覚でとらえる。空識覚で感じる。
issae 【動】行き交う。
rycmac 【名】(3)狭間。すきま。
sausnée 【動】かすめる。すばやく通りすぎる。
surepuch 【名】(2)事象の地平線。
tymbaidec 【名】(3)細部。極めて細い部分。

構文解析

第三連の構成は、ほぼ第一連と同じである。今回は語法上の注意を中心に、第一連と異なる点に気をつけながら構文を解析する。

十行目(第三連一行目)

fe を主語とし、不定法直説形の動詞を取る動詞文。一般的陳述。第二連で複数形をとった fe は、ここで再び単数形に戻る。以下、十三行目までこの型の動詞文が続く。

flare は移動を表す動詞だが、sure, ise などの自動詞と異なり、位置を補語ではなく、直接目的語として取ることができる。この箇所では flare は rycmac を直接目的語として取る他動詞として用いられる。gereulacr は rycmac を限定している(場所を示す生格)。

十一行目(第三連二行目)

第一連と同じく、第三連四行目まで、fe を意味上の主語とする動詞文が続く。

前にも触れたように、アーヴ語の特徴は、文脈上明らかな語をつとめて省略することにある。さらにいえば、アーヴ語文の中心は述部にのみあり、動作主・話題の中心を示す主部は、かならずしも文法上必須の文成分とはいえない。もちろん、主部が意味上不可欠であるときには、主部が明示されることはすでにいくつかの文において見たとおりである。

したがって以下十四行目までの三行は、ともに「主部が省略された」文ではなく、主部を欠く文とするのが、正しいアーヴ語文の理解であると考える。文法上の主部の重要性は、述部を限定修飾する他の文成分と同等なのである。

sausnée は母音幹動詞、不定法直説形。移動を表す他動詞であり、直接目的語を必要とする。sausnée は本来は接触の意の動詞であったと推定される。命令法のとき 屈折語尾 -no を取るので注意が必要。これは母音の連続を嫌うアーヴ語の音韻上の特色に由来し、すべての母音幹動詞に共通の現象である。sausnée の場合、命令法直説形は sausnéno となる。

surepuce は surepuch の対格。sausnée の直接目的語。

十二行目(第三連三行目)

issae も母音幹動詞。不定法直説形。移動を表す他動詞。直接目的語を必要とする。なお、この語の語尾 -sae は他の多くの動詞に見られ、古アーヴ語では「頻繁に」「交互に」を意味する接尾辞であったと考えられている。

dade lo fade 全体で issae の直接目的語となる。dade は dadh の、fade は fadh の対格。lo は並置を表す後置詞。a と同じく、とくに格支配を行わない。

十三行目(第三連四行目)

動詞 froce は frocragh と同根であるが、祖語に直接由来するかどうかは明らかでない。一般に知覚動詞は、自動詞と他動詞の両方としてふるまう。ここでは他動詞。

tymbaidel は tymbaidec の対格。froce の直接目的語。-aidec は「間」を表す接尾辞で、他に fractaidec などがある。gol は goc の対格、ここでは時空の意。tymbaidec と同格である。この用法はあまり類例がない。あるいはテキストに誤りがあり、tymbaidel gor とするべき可能性も否定できない。より精緻な本文批評が望まれる。

十四行目(第三連五行目)

ふたたび名詞文。前半は第一連五行目と同じである。ただし後半の部分が大きく異なる。この箇所のテキストには大きな議論があるが、ここでは早川版に従う。

carsarh gereulacr はアーヴ種族の雅称、「星たちの眷属」を意味し、直前の Bale(Abh) と同義である。gereulacr は生格、carsarh は主格である。

carsarh の直前の語、Bale は Fa の補語として具格を取る。carsarh が Bale と同格であるなら、文法的には格の一致する carsare (具格) となるはずだと考えられる。この箇所でなぜ carsarh が主格を取るかについては古来よりいくつかの説が立てられているが、代表的なものは大きくわけて以下のふたつである。まず carsarh が Bale と同格であるとする説であり、これはさらに、この箇所では本来 carsare (carsarh の具格)であったものが時代を経るにしたがって carsarh と誤った形で伝えられるようになったとする説と、当初からこの箇所は carsarh gereulacr の形であり、文法上の不一致は `carsare gereulacr' という短い語句のなかに /r/ が三回もあらわれることを嫌い、かつ第一連との相違をもたせるための詩的逸脱であるとする説にわけられる。一方の説は、carsarh と同格の語を Fa と見る。

この差異を訳しわけることは難しいが、前者は「私は、アーヴつまり星たちの眷属である」、後者は「私、星たちの眷属が、アーヴ(なの)である」とすることができよう。私がアーヴであり、アーヴが星たちの眷属であるということでは両者とも一致するが、文の含みが微妙に異なるため、論争が絶えない。本講義では、文としてもっとも自然な読みをもたらし、かつ格変化について厳密なアーヴ語の性質ともよく一致する詩的逸脱説を採用する。

小テスト

  1. 第三連に出てきた母音幹動詞をひとつ指摘し、その命令形を示せ。(1点)
  2. 第三連に出てきた名詞をすべて指摘し、その主格を示した上で、名詞格変化型にしたがって分類せよ。(16点)
  3. 動詞 froce を不定法で活用させよ。(3点)

答えは各自自己採点すること。

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Most recent update: 5/18/2001
First publification: 9/11/2000
5/18/2001 Some links are adjusted.
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2/01/2001 Answers of previous quiz moved. Link rearranged.
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