アーヴ語学演習A: 第二回

今回のテキスト(二連目: 6-9行)

明らかに早川版の間違いと思われる箇所は訂正した。

Frybarec éü,
Sicé léssote dar scurér alsaima.

Farer léssoth,
R'a sotle botsana dari éïrace lona.

新出単語

éïrach 【名】(2)繁栄。
éü 【後】呼びかけの意。〜よ。
alsaima 【形】髪の青い。
botsane 【動】もたらす。
léssoth 【名】(2)誓い。
lona 【形】永遠の
sice 【動】聞く。
soth 【名】(2)こと。事柄。

構文解析

六行目(第二連一行目)

擬人化された帝国への呼びかけ。呼びかけには主格を用いる。呼びかけに後置詞は必須ではない。しかし呼びかけの意を明瞭にする、呼びかけの表現に荘重さ・敬意・親しみ・軽蔑などの感情を付加するのに、しばしば後置詞が用いられる。

一般に、母音で始まる後置詞は、その直前の単語が子音終止のとき、その子音と連結して発音される。ただし一部の例外を除き、綴り字上の変化は起こらない。

したがって、ここでは éü は frybarec の最終子音 /r/ と連結し、 /fry:baréü/ と調音される。すでにみたとおり、この連結は綴り字上の変化を伴わない。

連結が起こる子音は、直前の単語の末尾の子音であり、直前の単語の末尾の綴り字ではないことに注意せよ。したがって、frybarec éü を /fry:bar kéü/ と調音するべきではない

七行目(第二連二行目)

命令文である。sicé は動詞 sice の命令法直説形。語尾 -é を動詞語幹に加えて、命令法直説形を形成する。なお命令法には直説形しかない。sice の動作主体は frybarec であるが、命令文の動作主体は文中には現われない。このため、動作主体を明瞭にするには、呼びかけの付加、あるいは命令法を用いずに他の表現、たとえば当為文(「〜は○○すべきである」)に云い換えることが必要となる。

また前回述べたとおり、アーヴ語では動詞の位置は自由だが、しかし文のなかで重要な単語は文頭におかれることが多い。そのため命令文においてはしばしば動詞が文の先頭に置かれる。

sicé は他動詞であり、直接目的語を要求する。目的語は léssoth。その後ろに léssoth を修飾する名詞句 dar scurér alsaima が続く。dar は単数二人称人称代名詞 de の生格であり、直後の scuriac を限定する(関係: 動作の目標を示す生格の限定用法)。scuriac は léssoth を限定しており(関係: 動作主を表す生格の限定用法)、直後に後置された形容詞 alsaima によって修飾されている。これを図解すると

      léssote(acc.)  dar(gen.= frybarer)
           ↑                  ↓
            \------------ scurér(gen.)←alsaima(adj.)
                               

となる(矢印は修飾→被修飾の関係を示す)。

形容詞 alsaima は「青」(緑やときに紫も含む)alac と「髪」*saim-ec/h とからなる合成語であるが、アーヴ種族の形容としてよく使われる。一般にアーヴ語では形容詞は後置される傾向にある。アーヴ語の祖語と類縁関係にある古ニッポン語や他の多くの言語と異なり、アーヴ語では形容詞は不変化詞である。注意されたい。

八行目(第二連三行目)

farer は人称代名詞の一人称複数生格。早川書房版では一人称複数対格 fare となっているが、誤記である。farh = (frybarer) scurér alsaima であり、つまりはアーヴ種族を指す。

アーヴ語の人称代名詞は格および数の区別をもつ。しかしアーヴ語自体は、その祖語が数の変化をもたない言語だったために、あまり数の区別に関して厳格ではない。アーヴ語で屈折を示す品詞としては名詞および数詞があるが、このどちらも数の変化を持たない。このため、人称代名詞においても、ときとして無意識また意識的な数の混同がみられる。

第一連では fe として表わされた abh が、第二連では farh となるのは、その好例であろう。

なお farer léssoth で一文節を形成し、これと次の行の re とは同格である。

九行目(第二連四行目)

r'a は re a の短縮形。fe a が f'a になるのと同じである。re は無生物中称代名詞代名詞であるが、遠近を意識しないとき、しばしばたんに既知の無生物主語を表すために用いられる。この点、印欧諸語における無生物を受ける三人称代名詞(英語の it、イタリア語の esso/essa など)と近い。すでに触れたとおり、この文の意味上の主語は、前行の farer léssothである。

r'a sotle で名詞文。sotle は soth の具格。soth は漠然と「こと」「物事」を指す他、分詞形動詞とともに用いられて、動詞句を名詞化する。頻出単語であるので、必ず覚えること。ここでは botnasa(botnase の不定法分詞形)とともに用いられている。

分詞形の動詞は、不定法分詞形語尾 -a が形容詞語尾 -a と共通であることからうかがわれるように、soth に対してちょうど形容詞が限定修飾を行うように機能する。このとき、「長いものが後ろ」および「形容詞が後ろ」というアーヴ語の構文法則が働くため、名詞を修飾する動詞句は名詞の後ろに置かれるのが一般的である。

botnasa は、もたらされるものを表す直接目的語、および行為の目標を表す間接目的語のふたつの目的語を必要とする。行為の目標は与格で示される(この文では dari)。dari は二人称単数与格、七行目と同じく frybarec を指す。目的語は前回触れたとおり、つねに対格で示される。ここでは éïrach lona が直接目的語。lona は形容詞で、éïrach を限定的に修飾する。

小テスト

  1. 第二連に出てきた形容詞をすべて指摘せよ。(2点)
  2. 第二連に出てきた動詞をすべて指摘し、その不定法直説形・命令法直説形・不定法分詞形をそれぞれ示せ。(6点)
  3. 人称代名詞単数二人称 de のうち、第二連に出てきたものをすべて指摘せよ。(4点)
  4. 名詞 scuriac を活用させよ。(8点)

答えは各自自己採点すること。

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Most recent update: 5/18/2001
First publification: 8/01/2000
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