アーヴ語学演習A: 第1回

今回のテキスト(一連目: 1-5行)

F'a rume catmé gereulacr,
Ullote izomél,
Lanote dige césati,
Lüamse nahainlace.

F'a Bale, scuréle Frybarer.(5)

新出単語

catmh 【名】(2)狭間。
digh 【名】(2)平和。
izomiac 【名】(4)挑む者。
lüamse 【動】富ます。
lanote 【動】保つ。
rume 【動】住む。
scuriac 【名】(4)創り手。創造者。
ullote 【動】打ち倒す。

構文解析

一行目

動詞文である。主語 fe は人称代名詞単数主格。これに後置詞 a が連続するとき、fe の語末母音は脱落し、後置詞 a と fe の子音/f/が結合(リエゾン)する。この連続は fe だけでなく、他の schwa 終止の代名詞にも共通なので、よく覚えておくこと。なお、この場合に限り、表記上も fe a ではなく f'a と書かれる。

ここで後置詞 a は文法的機能からだけいえば、必須ではない。しかしこれを置くことによって、fe (ここではまだ何を指すかは明示されない)の行為および性質がこの文の主題であることが明瞭に示される。なお a の語源は古ニッポン語の「は」と見られる。

f'a rume で「私は住む」を意味する。rume は自動詞 rume の直説形不定法。直説形不定法の用法として重要な、特定の時間や空間に限定されない事実の陳述(一般的陳述)の好例である。動詞が主体の直後に置かれることにも注意せよ。

単語としての動詞に言及するときには直説形不定法を用いるため、他言語からの類推によりこの活用形をたんに「不定形」と呼ぶ者もいる。しかしアーヴ語文法における「形」は、主文・断定従属文・仮言従属文の三種類の文を区別するための動詞の活用、直説・分詞・仮定の三種類の区別に使われるため、直説形不定法に「不定形」の名を冠するのは、混乱を招き、望ましくない。留意されたい。

rume は自動詞であるが、場所を表す補語(間接目的語)を必要とする。本演習では直接目的語を必要とする他動詞文においてのみ、間接目的語の語を用いる。自動詞の補語となりうるのは、与格・向格・奪格・具格である。動作主を示す主格と直接目的語を示す対格は補語(間接目的語)とならない。生格が補語となりうるかどうかはまだ明らかにされていない。

catmé gereulacr この語順は詩としての韻律によるもので、文法上は gereulacr catmé でもよい。ただしアーヴ語では散文においてすら「優雅な響き」を尊ぶ傾向が強い。このため、gereulach のような長い単語は後ろに置かれる傾向が強く、逆に短い単語は前に置かれることが多い。例として Bar Frybarec (アーヴ帝国)。

catmé は catmh の向格、ここでは rume の補語として、具体的に「住まわれる場所」を示す。gereulacr は gereulach の生格で、catmé を修飾してより具体的な場所を示す(生格の限定的用法のうち、場所の指示)。場所を指示する生格の例としては、Ciïoth Laitepainr (レトパーニュ星系)。

gereulach は gereu(gereuc の語幹)に集合名詞化語尾 -lach を付けたものであり、「星たち」「星々」を意味する。-lach は名詞語幹につき、集合名詞化する接尾辞である。なお複合語は、最後の語成分を除き、必ず語幹から作られる。蛇足ながら、gereulach は基本的単語の一つであり、そのまま記憶されることが望まれる。

二行目

これも動詞文である。以下、四行目まですべて動詞文であり、文頭に動詞が置かれる。

テキストでは四行目まで一文として表記されるが、文法的にみると、これを一文として扱うべき理由はない。この連では、並置文、すなわち接続詞を用いないで複数の文を並置する構文が修辞的効果のために用いられているが、これを四つの文を接続詞なしに並べたものとみることも可能である。本演習では、文法的構造の把握を優先させ、第一連四行目までを、それぞれ独立した文として取り扱う。

ullote は直説形不定法、一般的陳述。主語は前行と同じく fe である。前行と同じ文だから主語が省略されていると解釈するのは、初学者が陥り易い間違いである。むしろ、アーヴ語では動作主体が文脈から明瞭であるとき、しばしば動作主体は省略されると考えるのが適切である。

なお以下この詩に出てくる陳述文はすべて同じ型をもつ。

izomél は第四型名詞 izomiac の対格。動詞および若干の名詞に「する者」「する物」を意味する接尾辞 -iac を付して作られる語のひとつである。このようにして作られた語はみな第四型の活用をする。第四型名詞は、第三型名詞とほぼ共通の活用語尾を取るが、幹母音の交代(i - é)が起こる点が大きく異なる。第一型名詞と違い、数が多いのでより注意が必要である。

三行目

lanote は直説相不定法、一般的陳述。主語は fe(省略されている)。

dige は digh の対格、lanote の直接目的語。直接目的語を示すにはつねに対格を用いる。césati は césath の与格。lanote の間接目的語。一部テキストではこれを「平和を/真空世界の(生格)」と訳すが、誤りである。

一般に格変化がよく保存されている言語では、分析的言語と異なり、語順は文法的構造を示すのにあまり寄与しない。アーヴ語でも同様である。したがって、digh と césath の語順も純粋に語調によって決められている。

四行目

動詞文。lüamse は直説相不定法、一般的陳述。主語は fe(省略されている)。

lüamse は「富ませる」「富ます」を意味する他動詞であり、直接目的語を必要とする。ここでの目的語は nahainlace、nahainlach の対格である。gereulach と同様、この単語も名詞語幹 + lach から作られる集合名詞である。

ここまでが詩の最初の文である。

五行目

最初の文と異なり、第二の文は五単語からなる短い名詞文である。

F'a Bale で「私はアーヴである」。名詞文の主部は主格、述部は具格で示される。古印欧諸語と大きく異なる点なので、古印欧諸語由来の言語(ノヴ・ラテン語等)を母語とする学習者は特に注意が必要である。同じ意味のことを、存在・状態を示す動詞 ane を用いていうこともできるが(F'ane/F'a ane Bale)、この場合は、より「その状態にあること」を強調した表現になる。

なお、純粋な名詞文には動詞がないため、否定動詞接尾辞によって否定文を作ることができない。このため、動詞 ane の否定形 anade (an-ad-e)を用いて、主部(主格) + anade + 述部(具格)の構文によって、名詞文の内容を否定した文を作る。

scuréle は scuriac の具格、直前の Bale と同格である。同格の名詞の間には、後の名詞が前の名詞を説明する関係が多くなりたつ。ここでは Abh a scuréle frubarer と置きかえることができる。

frybarer は frybarec の生格で scuriac を限定する。これは動作の目標を表わす生格の用法である(scuriac frybarec = se(cnac) scura frybarel)。

小テスト

  1. bale の主格を示せ。(2点)
  2. gereulacr の主格を示せ。(2点)
  3. f'a を二単語に分解せよ。(4点)
  4. 第一連に出てきた動詞をすべて指摘せよ。(12点)

答えは各自自己採点すること。

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Most recent update: 5/18/2001
First publification: 7/31/2000
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