アーヴ語と著作権

Dadh Baronr スタッフのひとりである委員長代行に著作権についての問題をまとめてもらいました。なお文中の強調は Dadh Baronr 編集部によるものであり、原文にはなかったものです。


委員長代行です。はじめまして。今回、『星界よもやま話』特別編と称して著作権や知的所有権についての文章をまとめることになりました。

以下の見解はアーヴ語の円滑な普及に資するために、アーヴ語ならびにアース使用者の理解を助けることを目的としています。アーヴ語の創作者である森岡浩之氏、森岡氏を含めたアース字体の考案者、ならびにアースフォント製作者の方々の諸権利についてなんらかの制限を加える目的をもつものではありません。

またこの見解は『アーヴ語の世界』のものであり、関係者のかたがたおよび関係機関が違う見解を持つ可能性も残されています。 特に人工言語やその文字について直接権利が争われた裁判例を見つけることができなかったため、万が一紛争が起きてその紛争が裁判所に持ち込まれた時に裁判所が違う見解を示す可能性はあります。 その点はぜひお含みおきください。

また、この文章についてのお問いあわせは筆者ではなく『アーヴ語の世界』におよせいただくようお願い申しあげます。

アーヴ語の著作権

まず言語です。 人工言語自体には著作権が成立しないと考えられます。

人工言語の著作権自体が日本の裁判で争われたことはありませんが、参考になる判決はあります。 ゲートボールについての昭和59年2月20日東京地裁八王子支部判決です。

内容はゲートボールという競技がある人の考案にかかるもので、その人が規則書を著作した時に、その規則書に著作権が成立するからといって

  1. その規則書と内容の細部について違いがあって
  2. 文章表現、著述構成及び表現形式にも違いがあれば

その規則書についての著作権を侵害したことにはならないというものです。

これに「著作権はアイデアを保護するものではない」という著作権法のテーゼを組み合わせると人工言語についても言語自体に著作権は成立しないと考えられます。

ただしアーヴ語について書いたもの、たとえばピア・ハウツィ名義の「アーヴ語の素描」(『星界の紋章読本に収録)のようなものは、 著作権法10条1項1号でいう「小説、脚本、論文、講演その他のの言語の著作物」に該当しますので とうぜん著作物として扱われますし、著作権法の保護の対象になります。

日本語という言語に著作権が成立しなくても、たとえば日本語について研究した論文などには著作権が成立することでおわかりいただけるでしょう(なお、論文だから「必ず」著作権が成立するわけでもありません。詳細は著作権法の本などを御覧ください)。

アースの著作権

次にアースはどうでしょう。これはアースの字体(gryph)とそれをコンピュータや印刷の上で具体的に表示するフォントにわけられますが、著作権にかぎっていえば、一緒にとりあつかって構わないように見えます。

字体もしくは書体については、「書」に該当して美術の著作物と認められたもの以外はたいてい著作物性については out です。

「文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、
また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、
文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に
著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、
一般的には困難であると考えられる。」 (平成8年1月25日東京高裁判決)

これは平たくいうと「文字は情報を伝えるための道具ですよね?単なる道具に著作権を認めるのは妥当なのでしょうか?」という問題提起に対し、裁判所は「情報を伝えるための道具自体に著作権を認めるのは妥当ではない」と判断したということなのです。

だから通常の字体や書体については著作権を否定する。ただし「情報の伝達」という機能を失った文字、例えば「書」などには著作権を認める可能性もある……ということになります。

これを逆にいうと、限定なしに「著作物である」といえちゃうようなものは

「言語でなければ文字でもない」

とさえいえます。 だからアースが文字ならば、それは著作物ではない。アースが著作物ならば、それは一般に考えられる意味での文字ではない、 ということを主張する必要があります。

さらにいうと、文字は意匠法の保護の対象にもなりません。昭和55年10月16日の最高裁判決は、図案化した文字について意匠法の保護の対象とはならない判断を示しています。

また文字は実用新案や特許の対象にもならないようです。つまり現在の日本の法律では、文字の字体については知的所有権を主張することができないと考えてもいいでしょう。

ただし、アースを使ってつくった図表類は著作物と考えられます。たとえば『星界の紋章読本』に出てくるアース、アルファベットおよび発音記号の表がここでいう図表にあたります。

これも日本語で考えてみるといいでしょう。日本語の文字について著作権が認められなくても文字について「五十音表」「画数順の表」などを作ればそれには著作権が認められる可能性が出てきますね。それと同じことです。

もっとも今の日本では五十音表だとか画数順の表なんかは誰もが考えつくことですしまた実際にいくらでもありますから「あまり独創性がないなあ」ということで著作権は否定されると思います。

じゃあ何をしてもいいってこと?

もちろんそんなことはないのでして… 「法律で禁止されていなければなにをやってもよい」という主張ほど優雅ではない主張もありません。『アーヴ語の世界』がそのような立場を支持することもありません

アーヴ語やアース、またアースフォントが誰かの作品、つまり創作物であることは事実として残ります。ついでにいうと、現在入手可能なアーヴ語関連の資料に作者不明のものはありません(2001/5/01現在)。

たんに創作物であっても著作権は成立しないというだけの話です。

誰かの創作物を利用させていただくのだから、それにふさわしいやりかたというものがある、と『アーヴ語の世界』は考えます。たとえば出典を明示するとか、どこまでが自分の改変でどこまでが誰かのオリジナルかを明示するとか、やりかたはいろいろ考えられます。

いくつかのサイトで行われているように、あえて「アーヴ語は森岡浩之氏の著作物です」と表示するのも一つの方法です

ご自分の責任の範囲で、もっとも効果的かつ良識のあると思われる方法を試してみることをおすすめします。

…ほんとうにアーヴ語は著作物じゃないの?

しつこいな、君も。

でもいいところに気がつきましたね。ここまでの話にはひとつだけ隠れた前提があります。

アーヴ語を実在の言語・文字と同じように扱うことができる

という前提です。

アーヴ語が人工言語であることから、「言語・文字も著作物性が認められる」って可能性を全く否定することはできません

ただし、もし「人工言語なので、言語・文字にも著作物性が認められる」という主張をしちゃうと「アーヴ語は実在の言語・文字ではない」ということになって世界観を壊してしまうことになります。

これは優雅さにかけると思われるので『アーヴ語の世界』はこの立場を取りません。ですが、森岡氏やアース数字字体の作者である赤井孝美氏がこの立場を取る可能性を否定することもできません。これは裁判所がそのような見解を認めるかどうかとはまた別の問題です。

このドキュメントを参考にして何かをしようという方には、上記の可能性も十分考慮したうえで行動されるよう、お勧めしておきます。

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Most recent update: 5/13/2003
5/08/2001: ver 1.00 First Publification
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